300億円相続を放棄したら、同級生がパニックに


300億円相続を放棄したら、同級生がパニックに

私が300億円の家産相続を放棄し、月々15万円の生活費を選ぶと告げた時、私のルームメイトである黒崎清の顔色が一瞬で変わった。

前世、私は300億円の相続を選択した。すると黒崎は、私の家族信託基金を悪用し、クラス全員をラスベガスのカジノに招待したのだ。

一夜にして、300億円が湯水のように消え、家族企業は破産。父はショックで心臓発作を起こし、この世を去った。

私は黒崎に返金を求めたが、彼は女友達の白石みえの背後に隠れ、無垢な顔をして言った。

「言澈兄ちゃん、家が倒産したからって、俺に責任を押し付けるのはやめてよ」

みえはさらに言い放った。

「林言澈、自堕落なギャンブルで身を持ち崩したくせに、清のせいにするなんて、恥知らず!」

私が探偵に調査を依頼しようとした時、学級委員長の田中剛の車に跳ね飛ばされた。

みえとクラスメイト全員が彼のアリバイを証言し、私が自殺しようとして故意に飛び出したと主張したのだ。

目を開けると、私は家産相続を選択する日へと戻っていた。

卒業前、教室で黒崎が提案した。

「みんな、卒業記念にラスベガスに行かない? 費用は全部俺が持つよ!」

黒崎のその言葉に、私は全身を震わせた。骨が砕ける痛みが、まだ完全には消えていなかったことに気づいた。

私は――『再びこの時を生きている』と悟ったのだ。

黒崎の提案に、教室は歓声に包まれた。

「清、さすが金持ちだな!」

「ラスベガスに行くなら、カジノは外せないよ! 広告でよく見るけど、行ったことないんだ!」

黒崎は満面の笑みを浮かべた。「いいよ、じゃあカジノに行こう!」

そして彼は私に向き直り、近づいてきた。

「言澈兄ちゃん、君の林家、カジノのVIPだって聞いたよ。そのプレミアムカードを貸してくれないか? みんなで一流のサービスを味わわせてよ」

私は全身が凍りついた。前世の悲劇、家族崩壊の始まりは、まさにこのカード貸しの要求からだった。

当時、彼はカードを借りるふりをして、父が私に託していたチューリッヒ銀行の信託基金カード(300億円)をこっそり盗み出したのだ。

破産通知の電話が私にかかってきた時、初めて黒崎がクラスメイトと湯水のように使っていた金が、私の家族の信託基金だと知った。

返金を求めて黒崎の家に行くと、彼はみえの背後に隠れ、無垢な顔で言った。

「言澈兄ちゃん、家が倒産したからって、俺に責任を押し付けるのはやめてよ」

みえは私の肋骨を蹴り折りながら、非難した。

「林言澈、自堕落なギャンブルで身を持ち崩したくせに、清のせいにするなんて、恥知らず!」

私が探偵に調査を依頼しようとした時、黒崎は車で私を轢き、息の根が止まるまで何度もバックして轢き続けた。

その後、みえとクラスメイト全員が証言し、『家が破産して自暴自棄になり、故意に飛び出した』と主張したのだ。父も激しいショックで心臓発作を起こし、亡くなった。

私は無意識にカバンを探り、冷たい金属のカードに指が触れた。それをしっかりと握りしめた。

私の反応の薄さに、黒崎は笑いながら私の肩を組んだ。

「言澈兄ちゃん、みんなで使うだけだよ、君のカードが減るわけじゃないだろ?」

「悪いけど、あのカードは父のものだ。簡単には貸せない」私はプレミアムカードをカバンの奥深くに押し込んだ。

私の言葉に、黒崎の表情が曇った。

「どうせいつかは君が会社を継ぐんだろ? 家族なのに、そんなにケチケチするなんて」

するとみえが突然、私のカバンを奪い取り、中の物を全て床にぶちまけた。スマホ、ゲーム機、タブレットが散らばった。

みえは金色のカードを一目で見つけ、拾い上げて黒崎に渡した。

「ほら、これじゃない! 遠慮なく使って!」

黒崎はそれを受け取る時、わざとみえの手を撫でるようにした。

「みえちゃんは本当に気が利くな。言澈兄ちゃんも奥さんを見習わないとね」

その時、別の男子が床に落ちた最新型ゲーム機を拾い上げ、興奮して叫んだ。

「おおっ! これ、超レアな限定モデルじゃん! 全然買えなかったよ!」

みえは黒崎の欲しそうな視線を察し、腰をかがめてゲーム機を拾い上げ、黒崎の胸に押し付けた。

「それも持って行っていいよ。どうせ言澈はもう飽きてるし」

「ありがとな、みえちゃん!」黒崎の顔に笑みが広がった。

私は冷たく言い放った。「ゲーム機もカードも、貸すつもりはない」

みえはすぐに腹を立て、私の腕を掴んで叱りつけた。「林言澈、いつからそんなケチな人間になったの?!」



覚醒の一撃

パンッ!

朝の教室に響いたその音は、あまりにも衝撃的だった。白石みえは顔を押さえ、よろめきながら二歩後退した。せっかくセットした前髪も乱れていた。

彼女の大きく見開かれた目には信じられないという色が浮かび、ネイルにつけたスワロフスキーの輝きが朝日を受けて鋭く光っていた。

「林言澈! よくも私を殴ったわね!」彼女の金切り声は、尾を踏まれた猫のようだった。

私は痺れた手を振りながら、冷たく笑った。「この一発は、節度というものを教えるためだ。お前が俺の物を勝手に他人にやり取りする資格なんて、これっぽっちもない」

教室は一瞬にして騒然となった。

「林言澈、頭おかしいんじゃないか?」 「ゲーム機一つで、そんなに大げさなことするかよ?」 「彼女はお前の彼女だろうが! 殴るなんて!」 「金持ちってだけで調子に乗ってんじゃねーぞ!」

黒崎清は慌ててみえを支え、私を睨みつけて言った。「言澈兄ちゃん、みえちゃんはみんなのためを思ってやってるんだ! そんな態度ありえないよ!」

私は腰をかがめ、床に散らばった私物を拾い集めながら、落ち着いた様子でプレミアムカードをポケットにしまった。「俺の態度は明確だ。貸さない」

みえは突然、黒崎の手を振りほどき、私に突進してきた。「林言澈! 今すぐカードを清に返して、私たちに謝りなさい! さもないと別れるからね! こんな心の狭い男、私の彼氏じゃ困るの!」

「返す? 元々俺の物だ。誰に返せって言うんだ?」 私は彼女の爪をかわし、口元に笑みを浮かべた。「別れるって? ちょうどいい。別れ料も節約できる」

この言葉は蜂の巣を突いたような騒ぎを引き起こした。みえは全身を震わせて怒り狂った。「あんた…あんた、私がお金欲しさに付き合ってると思ってるの?」

「違うのか?」私は眉を上げて、彼女の手首にはめたカルティエの時計を見た。「じゃあ、先週俺が誕生日にあげたプレゼント、まず返してくれるか?」

彼女の顔は一瞬で青ざめ、無意識に腕時計を隠すように押さえた。

周囲のクラスメイトたちの表情が、一瞬で微妙に変わった。

学級委員長の田中剛が突然、怒りの表情で机を叩いて立ち上がった。「林言澈、お前は本当に自己中だな! 清がみんなのためを思ってラスベガスに招待してくれてるのに、お前は少しもクラスのことを考えないのか?」

「そうだよ」学級委員も同調した。「普段はいい人ぶってるくせに、肝心な時になると本性を現すんだな」

私は一通り、見覚えのある、しかしどこか冷たい顔ぶれを見渡した。前世、法廷で口を揃えて私が自殺したと偽証したのは、まさにこの面々だった。

「黒崎がお前らをラスベガスに呼ぶんだろ? だったら彼のところに行けよ、俺のところに来るな」

黒崎がまた前に出てきた。「俺たちが君のプレミアムカードを使えば、カジノでの行動が君のVIPランクを上げることにも繋がるんだぜ? 一石二鳥のいい話だろ!」

みえは黒崎のそばに寄り添い、さっきの痛みなど忘れたかのようだった。 「清は本当に思いやりがあるのね。言澈があんなにひどいのに、それでも彼のことを考えてあげてるんだから」

「君たちがそんなにラスベガスに行きたいなら…」私は財布からカードを一枚抜き出した。「貸してあげようか?」

黒崎の目が輝き、手を伸ばして取りに来ようとした。

私は手首をひねり、カードの全面を見せた――それは学食のプリペイドカードだった。

「ふざけてるのか?!」黒崎の顔が怒りで歪んだ。

「お互い様だ」私はプリペイドカードを指先でくるりと回した。「お前らも、俺を道徳で縛り上げようとしてただろ?」

みえは突然、教壇のチョーク箱を掴み、私に向かって投げつけた。「林言澈! あなたと付き合った私がバカだったわ!」

私は体をかわした。チョークが床に散らばった。



偽りの仮面、暴かれる瞬間

黒崎清は私がプレミアムカードを渡すのを頑なに拒むと、その表情は一瞬で険しいものに変わった。

彼は周囲のクラスメイトに目配せした。数人の男子がすぐに私を取り囲んだ。

「林言澈、図々しいのも大概にしろよ」黒崎は声を潜め、目つきは陰険だった。「ただのカード一枚で、ここまで見苦しい真似をするつもりか?」

私は冷笑を一つ漏らし、カバンを体の前に構えた。「どうした、奪う気か?」

「奪う? お前を『目覚め』させてやるだけだ!」後ろにいた田中剛が突然、私を強く押した。私はよろめきながら数歩後退し、机にぶつかった。カバンは床に落ち、中身が再び散乱した。

白石みえは傍らに立ち、嘲笑を浮かべていた。「自業自得ね」

数人の男子が私の教科書を蹴り飛ばし、そのうちの一人がわざと私のゲーム機の上を踏んだ。液晶にひびが入った。

「てめえら、何しやがるんだ?!」私は猛然と立ち上がろうとしたが、肩を誰かに強く押さえつけられた。

「言澈兄ちゃん、そんなケチなこと言わないでよ」黒崎は偽りの笑顔を作り、私のポケットに手を伸ばしてきた。「みんなクラスメイトだろ? カード一枚貸したってバチは当たらないよ」

私は彼の手を払いのけた。「触るな!」

これが黒崎の逆鱗に触れた。彼は顔を引きつらせ、突然私のシャツの襟を掴んだ。「舐められた真似はできねえな?」

周囲のクラスメイトは止めるどころか、逆に煽った。 「ほら! 金持ちってだけで何様だ!」 「見え透いた見栄張りやがって、ただのカードだろうが!」

黒崎は私が屈服しないのを見ると、直接、拳を私の顔面に向けて振りかぶった。

私は首をかわし、逆に彼の手首を掴み、強く捻った。 「うわっ!」彼は痛みで声を上げ、よろめきながら後退した。

白石みえが突然悲鳴を上げた。「林言澈! よくも手を出したわね?!」

彼女が爪を立てて私の顔を引っかこうと突進してきた。私は彼女を押しのけ、素早くポケットからスマホを取り出し、直接110番した。

「もしもし、警察ですか? 私立名門大学です。集団で私の私物を奪い、器物損壊、暴力行為を受けています」 みえの顔色が一変し、猛然と飛びかかってきた。「何をするのよ?!」

彼女は私のスマホを奪うと、見ることもなく窓の外へ放り投げた。

ガシャンッ! スマホは階下のコンクリートに叩きつけられ、画面は粉々になった。 教室は一瞬、水を打ったように静まり返った。

しかし彼らの予想に反し、10分も経たないうちに、サイレンの音が階下で鳴り響いた。

警察が教室に入ってきた時、黒崎とみえの顔は一瞬で青ざめた。 「通報したのは誰だ?」先頭の警官が周囲を見回した。

「私です」私は手を挙げた。「彼らが私の物を奪い、スマホを壊しました」

警官は床に散らばった私物、割れたゲーム機、そして窓の外に投げ捨てられたスマホの残骸を見て、眉をひそめた。「どういうことだ?」

黒崎はすぐに無実を装った。「いや、警官さん! ちょっとした悪ふざけですよ!」

みえも慌てて同調した。「そうですよ! クラスメイト同士の冗談です!」

他のクラスメイトもこぞって証言した。

私は冷ややかに彼らを一瞥した。この連中は、前世に偽証した時とまったく同じ顔をしていた。

警官は冷ややかに笑った。「スマホを壊し、暴力を振るう。それを冗談だと?」

担任教員の佐藤が知らせを聞いて駆けつけ、顔を真っ青にして怒っていた。「何てことだ?! 教室で何が起きているんだ?!」

警官が状況を簡単に説明した。佐藤はそれを聞き終えると、黒崎を強く睨みつけた。「またお前か!」

結局、警察の仲裁の下、黒崎清と白石みえは私のスマホとゲーム機の弁償を余儀なくされ、公の場で謝罪させられた。

職員室を出る時、みえは声を潜め、歯軋りしながら言った。「林言澈…覚えてなさいよ」

私は彼女の歪んだ表情を見て、突然笑みを浮かべた。 「ああ、覚えてるよ」

寮に戻って荷物をまとめていると、私の物が誰かに荒らされた気がした。しかし、何もなくなってはいなかったので、気に留めなかった。

学校を出たところで、一台の黒いマイバッハが私の前に停まった。 「言澈様、ご主人様が至急お目にかかりたいとおっしゃっております」滝川は私が口を開く間もなく、私を車に押し込んだ。

夜、父は二通の書類を私の前に押し出した。金縁眼鏡の奥の視線は鋭く研ぎ澄まされていた。

「言澈、これがお前の最後の選択の機会だ。500億円の家族信託基金の相続権か、あるいは、月々15万円の生活費だ」 「300億円はすでにお前のチューリッヒ銀行のカードに入金されている。署名さえ済ませば、その資金を自由に使えるし、家業を継ぐこともできる」

会議室のシャンデリアが父の背後でまばゆい光を放っていた。私は前世の記憶を思い出した。父の心臓発作、粉々に砕けた骨の音。死の間際に聞こえた黒崎の嘲笑が、今も耳元にこだましていた。

「月々15万円の生活費を選びます」



決断の代償

私は右側の書類を手に取り、自分の名前を記した。

父の手に持たれていた万年筆が「カツン」と重厚な木の机に落ちた。彼は猛然と立ち上がった。「お前、正気か?」

私は父を見つめ、笑顔で答えた。「私はまだ若すぎますし、世間知らずです。今の私に300億円もの巨額な基金を扱い切れるとは思えません。それに、父さんはまだお元気ですし、私はもう少し経験を積むべきです」

父は私をじっと見つめ、長い間口を開かなかった。

「お前が15万円を選んだ以上、この15万円以外は、一円たりとも余計には渡さん。それでいいのか?」

私はうなずき、もう一度確認した。

私がうなずくのを見て、父は冷たい声で言った。「滝川、言澈のチューリッヒ銀行のカードを凍結せよ」

翌日、私は黒崎がこっそりすり替えた偽のカード二枚(恐らくプレミアムカードと信託基金カード)をゴミ箱に捨て、黒崎たちの後を追うようにラスベガスへ向かった。

父はここの常連客で、私を何度も連れて来ていた。入り口の警備員でさえ私の顔を知っている。

カジノの支配人が小走りで近づいてきた。「清宮の若様、今回はお一人でいらっしゃったのですか?」

「クラスメイトが何人か遊びに来ていると聞いて、様子を見に来ただけだ」

支配人は何度も頷いた。「確かに今朝、若い方々がお見えになりました。清宮様のご学友だったのですね。おっしゃっていただければ、もてなさせていたのですが」

私は手を振った。「構わない。案内してくれ」

支配人は笑いながら、私の手にチップを10枚押し込んだ。「若様、お楽しみください。これらは私からのささやかな気持ちです」

私は手の中のチップをポンポンと軽く投げた。1枚が10万ドル(約1500万円) に相当する。私は笑ってそれを受け取った。

カジノのメインフロアは煌びやかな照明と喧騒に包まれていた。私が足を踏み入れるとすぐに、黒崎のいるテーブルで私に気づいた者がいた。

そして、耳障りな笑い声が上がった。

「おお、これは林…いや、清宮の御曹司様じゃないか?」黒崎はシャンパングラスを揺らしながら、袖口のダイヤが照明に冷たい光を放っていた。「どうした、やっと気が変わって俺たちに加わる気になったか?」

白石みえが彼のそばに寄り添い、新しく施したダイヤネイルでチップの山を軽く叩いた。「最初からプレミアムカードを貸してりゃいいのに、今さら後を追ってくるなんて…」 彼女はわざと声を長引かせた。「まさか、後悔してるんじゃないわよね?」

「絶対に、俺たちが大きな賭けをしてるのを見て、妬んでるんだぜ!」委員長の田中剛がバカ笑いしながらテーブルを叩いた。「今さら正しい選択に気づいたか? 遅いんだよ!」

私はゆっくりとスーツのボタンを外し、隣のゲームテーブルに腰を下ろした。

ディーラーがカードを配ろうとしたその時、黒崎は椅子を蹴り飛ばして立ち上がり、私の方へ歩いてきた。安物のコロンと酒、煙草の臭いが鼻を突いた。

「何を気取ってやがる?」彼はチップの束を私のテーブルに叩きつけた。円形のチップがコロコロと私の手元まで転がってきた。「清兄ちゃんって呼べ。そのご褒美に、チップを何枚かやらあな」

カジノの支配人が素早く歩み寄ろうとしたが、私は手を挙げて制止し、指先でそのチップをそっと押し戻した。「黒崎、カジノの床になぜカーペットが敷いてあるか知ってるか?」



カジノの真実

彼はきょとんとした。「は? 何だよ?」

「滑らないようにだ。誰かが負けすぎて膝がガクガクになり、跪いた時に、膝が痛くなりすぎないようにな」

VIPルーム全体が突然、静まり返った。

黒崎の顔色が瞬時に土気色に変わった。彼の後ろにいたクラスメイトたちは、祝杯を挙げようと持っていたシャンパングラスを固まったままにしていた。泡が滑稽なほどにグラスの壁を伝って流れ落ちていた。

クリスタルのシャンデリアがカジノのフロアを白昼のように照らしていた。私の指先のチップがその光に反射し、冷たい輝きを放っていた。

すると突然、隣のテーブルから相次ぐ嘆息が聞こえてきた。40人のクラスメイトたちの目の前にあるチップの山が、目に見える速度で崩れ去っていく。

「また負けた!」体育委員がテーブルを拳で叩きつけた。彼のアルマーニのシャツの背中は、汗でびっしょりと濡れていた。

白石みえは私の手元にあるわずか10枚のチップを見て、黒崎の腕を抱きながら笑い出した。「ねえ、清。言澈と遊んであげたら? 何枚か負けてあげてよ。そうすれば彼ももう少し遊べるし」

私が同意する間もなく、黒崎はどっかりと私の正面に座った。 「何で勝負する?」私は尋ねた。 「ブラックジャックだ。シンプルな方がいい」黒崎は肩をすくめた。彼の最も得意なゲームだった。 「いいだろう。ただし、1ゲームずつじゃ遅すぎる。オールインだ」私は手元にある全てのチップ10枚を押し出した。 「いいぜ、付き合うよ!」黒崎は手を伸ばし、自分のチップも押し出した。

ゲーム開始直前、私は黒崎がこっそりディーラーの手にカードを一枚渡すのを目撃した。 私は笑みを浮かべ、何も言わなかった。

ディーラーがカードを配り始めた。各プレイヤーに2枚ずつ。黒崎の最初のオープンカードは、スペードのエースだった。 黒崎はかすかな笑みを浮かべた。明らかにこのカードは彼の想定内だった。 彼は2枚目のカードを開けた――スペードのキング。笑みが一気に広がった。彼はブラックジャック(21点)を引いたのだ。スペードのエースは1点にも11点にもなる。プレイヤーが決めるルールだ。

私は目の前のまだ開けていない2枚のカードを見つめ、淡々と言った。 「ヒット(カードを追加)」 ディーラーが私に3枚目のカードを配った。 私はまだ見ずに言い続けた。「ヒット」

その時点で、周囲の者はもう我慢できなくなっていた。 「こいつ頭おかしいんじゃないか? 2枚も追加して、バースト(21点超え)するのが怖くないのか?」 黒崎も私を嘲笑した。「言澈、これは大富豪(トランプゲーム)じゃないんだぞ? そんなにカードを引いてどうするつもりだ?」

支配人も傍らに立ち、私のためにもらはらしていた。



逆転の一手

「あっ…」 「マジかよ、こいつ頭おかしいんじゃないか? 3枚も追加だぞ?」 黒崎は首を振りながら苦笑した。「ブラックジャックのルールブックを渡してやったほうがいいんじゃないか?」

私は彼らを無視し、黒崎を見た。「オープン(カードを開示)しよう」 「よく見とけよ、この勝負は俺のモノだぜ!」黒崎は手札を開いた。 スペードのキング、スペードのエース。 「完璧なブラックジャック(21点)だ! 黒崎の圧勝だ!」 「ははははっ、清宮言澈、お前は借金まみれでパンツ一枚になるまで負けるんだな!」 「クラスの恥だから、外で俺たちのクラスメイトだなんて言うなよ!」

私は手札を開いた――3枚の2(ツー)と2枚の3(スリー)。 合計点はたったの12点。

しかし、全員が息を呑んだ。なぜなら、私の手にしたこの5枚のカードは、最も弱いカードの組み合わせだったが、5枚全てが同じ数字(2と3)の組み合わせ、いわゆる「ファイブスター(特殊役)」であり、それは黒崎の持つ「ブラックプリンス(ブラックジャック)」を上回る役だったからだ。

みえは黒崎の腕を掴んで金切り声を上げた。「勝つって言ったじゃないの!?」 彼女のダイヤネイルが黒崎の腕に深く食い込み、数本の血痕を残した。 「ズルよ! 彼、絶対にイカサマしてるわ! ありえない!」

黒崎は怒ってみえを振りほどき、両手を賭け台に叩きつけて大きな音を立てた。 「どうやら幸運の女神は今日、私の味方のようだな」私は淡々と言った。

「お邪魔します」支配人のワニ革の靴が床に落ちたチップを踏みつけ、作為的な笑みを浮かべた。「黒崎様、お客様の負債はすでに9億8千万ドル(約1470億円)に達しております。金額が過大であるため、こちらのお支払いを済ませていただかないと、ゲームを続けることはできかねます」

賭けテーブル全体が死の沈黙に包まれた。 みえの持っていたシャンパングラスが床に落ち、大理石の上で粉々になった。

「何て意味だ? 俺が金を返せないとでも言うのか?」黒崎は椅子を蹴り倒し、エルメスの財布から金色に輝くプレミアムカードを取り出し、叩きつけた。「見ろ! 俺はここのVIPだ! 50億ドル(約7500億円)の与信枠があるんだぞ!」

支配人はピンセットでカードを慎重に取り上げ、じっと見つめると、突然私に向かって深々とお辞儀した。「清宮様、これは三年前にご尊父がこちらでご登録になったプレミアムカードでございます」 彼はわざと声を張り上げた。 「規定により、直系親族様はご利用いただけますが、非所持者のご利用には5億ドル(約750億円)の保証金が必要となります」

クラスメイトたちの表情が一時停止ボタンを押されたように固まった。 委員長の田中剛の口元には、さっき祝杯を挙げた時のシャンパンの泡がまだついていた。

支配人は厳しい表情に変わった。「当初、皆様がこのカードをお使いになった際、清宮様のご学友かご友人と存じましたが、先ほど確認したところ、清宮様は皆様を友人として認識されてはおりません」

支配人の言葉を聞いて、連中は一斉に私に向かって叫び出した。 「清宮言澈、お前ってやつは! 黒崎がお前を連れて来なかったからって、同級生すら認めないなんて!」 「本当に傲慢な小人だ!」

私は冷笑した。「私の許可なく、私のプレミアムカードを盗むような同級生は知らない」 「ふん、ただのプレミアムカードがどうしたっていうの?」みえはその金色のカードを掴むと、私に向かって投げ返した。「清、払ってしまいなさい。払ったらまたゆっくり遊べばいいじゃない」

支配人はポス機を一台、黒崎の前に差し出し、帳簿を軽く叩いた。「黒崎様、現在の債務は14億8千万ドル(約2220億円)でございます。カジノの規定により、現金または即時決済が可能な手段でのお支払いをお願いいたします」

「バカ言うな!」黒崎は突然狂ったように笑い出し、内ポケットから冷たい光を放つチタンカードを取り出し、賭け台に叩きつけた。スイスのチューリッヒ銀行のロゴが刻まれたそのカードは、照明に青みがかった光沢を放っていた。

「よく見ろ!」彼の震える指がカード表面の浮き彫りの金色の文字をなぞった。

VIPルーム全体が水を打ったように静まり返り、目線が一斉にこの一攫千金を狙う男に注がれた。

カードがポス機を通過する音がした。 ビーッ

支配人が眉をひそめた。「お支払いが拒否されました」

黒崎は猛然とポス機を掴み、地面に叩きつけた。プラスチックの破片が飛び散った。「こいつが故障してるんだ! 新しいのを持ってこい!」

支配人は逆上する黒崎を静かに見つめ、手を振った。側にいた従業員がすでに新品のポス機を持ってきていた。

再び支払いは拒否された。 今度は黒崎が落ち着きを失った。



崩壊の序曲

黒崎清は顔を青ざめさせながらスマホを取り出し、震える手で銀行に電話をかけた。

電話の向こうからは丁寧な対応の声が聞こえたが、黒崎の表情はますます険しくなっていった。

電話を切ると、彼は猛然と私を睨みつけ、目には怒りと信じられないという色が満ちていた。

「清宮言澈! お前、なぜ相続しなかったんだ?!」彼はほとんど叫ぶように言った。その声はカジノの広間にもこだました。

私は肩をすくめ、無邪気な顔で言った。「ただ、自分の能力が足りないと思ったんだ。まだ300億円という巨額の資金を扱いきれない。それに、俺が相続しなかったのは、俺のカードが凍結されただけだ。お前には何の関係があるんだ?」

私はわざと間を置き、疑わしそうな表情を浮かべた。「まさか…お前も家産を相続してないから、カードが凍結されたんじゃないだろうな?」

黒崎の顔が一瞬で真っ赤になり、拳を握りしめてギリギリと音を立てた。

周囲のクラスメイトたちが私の言葉を聞き、一様に疑いの表情を浮かべ、視線が黒崎と私の間を行き来した。

白石みえはその様子を見て、慌てて一歩前に出て、無理やり笑顔を作った。「言澈、そんなこと言わないで。相続しなかったら、これから食べるものも飲むものもどうするの? ちょっと…お父様に謝って、家産を相続したらどう?」

私は軽く笑い、首を振った。「いいや、俺はそんなに浪費しないし、月々15万円でも十分足りる」

黒崎はついに我慢できなくなり、私を指さして罵倒した。「清宮言澈! てめえ、わざとだろ! カードが凍結されるって知ってて、罠を仕掛けたんだろうが!」

周囲のクラスメイトたちもここにきてようやく理解し、口々に黒崎を非難し始めた。

「黒崎、お前金あるって言っただろ? 早く払えよ!」 「そうだよ、お前金持ちのボンボンだろ? これくらいの金も出せないのか?」 「俺たちみんなお前に騙されて来たんだぞ! 今どうするつもりだ?!」

黒崎は追い詰められ、額に青筋を立てた。

彼は突然ポケットから別のカードを取り出し、スクリーンに叩きつけ、歯軋りしながら言った。「このカードに1000万円入ってる! 俺の分だけ払う! 他の連中の借金は知らん!」

みえは目を見開き、信じられないという表情で黒崎を見つめた。「清! どうしてそんなことできるの? みんな一緒に来たんでしょうに!」

黒崎は冷たく彼女を一瞥した。「俺の知ったことか! お前らで何とかしろ!」

クラスメイトたちは一気に騒然となった。黒崎の非情を罵る者もいれば、私に向き変わり、哀願するような表情を見せる者もいた。

「言澈、みんなクラスメイトだろ? 助けてくれよ!」 「そうだよ! お前はたくさん勝ったんだろ? この借金を肩代わりしてくれれば、これからもみんな友達だ!」

私は首を振り、口調は平静ながらも確固たるものだった。「悪いが、お前たちとはとっくに友達じゃない」

支配人は場の混乱を見て、前に進み出て無表情で言った。「皆様が債務をお支払いできない場合、法的措置に移らせていただくか――」 彼は間を置き、一人ひとりの手を見た。「片手を差し出していただくかのどちらかとなります」

この言葉は皆の頭上に冷水を浴びせたかのようで、カジノ内の空気が一瞬で凍りついた。

クラスメイトたちの顔色は一瞬で青ざめ、恐怖で足がガクガクとなり、その場に崩れ落ちる者もいた。

「言澈! お願いだ! 本当に悪かった!」委員長の田中剛が真っ先にひざまずき、声には嗚咽が混じっていた。 「全部黒崎が仕組んだんだ! お前が金持ちだから、俺たちをそそのかして巻き込んだんだ!」みえも慌てふためき、すぐに責任転嫁した。

黒崎はその様子を見て、全身を震わせながら怒り狂った。「この恩知らずどもめ! 当初、誰がペコペコして俺についてラスベガスに来たいって言ったんだ?! 」

私は眼前に広がる醜態をただ眺めていた。心には微動だにしなかった。 前世の裏切りと陥れが、今ようやく彼らに自業自得の結果をもたらしたのだ。

支配人が手を振った。数人の警備員がすぐに近づいてきた。「お支払いができないということであれば、規定に従い処理させていただきます」



業火の代償

黒崎は抵抗しながら叫んだ。「触るな! 俺はもう払ったんだぞ!」

支配人は冷笑し、ポケットからカードを一枚取り出した。それは先ほど黒崎がディーラーに渡した賄賂のカードだった。

彼はゆっくりと言った。「黒崎様、あなたはご自身の賭博債務を清算しただけです。清宮様のプレミアムカードをご使用になった保証金5億ドル(約750億円)はまだ未納です。それに加え――」 支配人の目つきが冷たくなった。「あなたは先ほどのゲームでイカサマを行いました。片手を差し出す必要があります」

黒崎の顔が一瞬で血の気を失い、冷や汗が噴き出した。彼は声を震わせて叫んだ。「俺…俺、電話をかけさせろ!」

一時間後、黒崎の父親である黒崎建一が慌ただしくカジノに駆けつけた。

スーツに身を包んでいたが、怒りに満ちた顔だった。入るなり黒崎の頬を強く叩きつけ、怒鳴りつけた。「バカ息子め! お前、どれだけ大きな穴を開けたと思ってるんだ?! 」

建一は怒りを抑え、支配人に詫び笑いを浮かべた。「息子が不届きなことを…何とかご容赦いただけませんでしょうか…」

支配人は無表情で請求書を差し出した。「黒崎社長、ご子息が負われた債務に保証金を加えますと、総額14億8千万ドル(約2220億円)となります。おっと、先ほど1千万円お支払い済みですので、こちらの請求書をお支払いいただければ、本件はなかったことにいたします」

建一は目の前が真っ暗になり、気を失いそうになった。

彼は震える手で請求書をめくり、声まで震えていた。「こ…これは大きすぎる、すぐにはとても用意できん…」

支配人は薄ら笑いを浮かべた。「構いませんよ。資産の差し押さえも受け付けております」

長い葛藤の末、建一は歯を食いしばって自分が一代で築き上げた会社を抵当に入れた。

それでもなお、資金は大きく不足していた。

建一は他のクラスメイトの親にも連絡した。子供の手を守るため、彼らは家を売る者、車を売る者、借金をする者、と必死になってようやくこの穴埋めをした。

帰国後、家財道具を全て失ったクラスメイトたちは完全に崩壊した。

彼らは全てを失った――家、車、貯金、そして親の信頼まで。

そしてこの全ては、黒崎清の傲慢と貪欲さのせいだった。

怒り狂ったクラスメイトたちが集まり、歯軋りしながら言う者がいた。「黒崎が俺たちを破滅させたのに、あいつは平然と生きてやがるのか?」 「あいつの親父は会社を抵当に入れただけだ。俺たちは? 俺たちは何もかも失ったんだ!」 「このまま終わらせるわけにはいかない!」

その夜、集団が黒崎家の別荘に押し寄せ、黒崎親子を屋内に閉じ込めた。 建一はまだ言い訳しようとしたが、怒りの群衆はとっくに理性を失っていた。 「燃やしてしまえ!」誰かが怒鳴った。

炎は天を衝き、別荘全体を飲み込んだ。 黒崎と建一は火の海に閉じ込められ、絶叫を上げ続けたが、誰も助けようとはしなかった。

炎が夜空を赤く染め上げる中、クラスメイトたちの歪んだ表情が浮かび上がった。 彼らは遠くに立ち、ただ静かにそれを見つめていた。目には憐れみなどなく、復讐の快感だけが映っていた。

翌日、ニュースが世間を駆け巡った――

名門父子、火災で死亡! 怨恨による復讐か?



新たなる未来へ

白石みえについては、家産が借金返済のため売り払われ、彼女はかつての華やかな生活を完全に失った。自慢のブランドバッグ、時計、宝石、アクセサリーは全て債権者に取り上げられた。

追い詰められた末、彼女は厚かましくも私を訪ねてきて、涙を流しながら泣きついた。「言澈…私、間違ってた…あの時は悪魔にでも憑かれてたの、許してくれない?」

私は喫茶店で、安物の化粧品が涙でにじんだ彼女の惨めな姿を見つめながら、静かに笑った。 「白石さん、君の今の姿は、僕の肋骨を蹴り折ったあの時よりずっとリアルだよ」

彼女の表情が凍りついた。私は立ち去ろうとすると、背後で彼女の絶叫が聞こえた。「清宮言澈! いつか必ず報いを受けるわよ!」

三ヶ月後、私は社会面のニュースで彼女の姿を見た。

テレビには警察に護送される彼女が映っていた。せっかくセットした髪は乱れ、ネイルのスワロフスキーは剥がれ落ちていた。 成金令嬢を偽り、富二代(金持ちの二世)を狙った詐欺を繰り返し、ついに発覚したという。

私は窓の外の陽の光を見つめた。この人生では、全ての者が相応の結末を迎えたのだ。

三年後、父は正式に家業を私の手に委ねた。

引き継ぎの式典で、父は私の肩を叩き、隠しきれない安堵の表情を浮かべていた。「言澈、この三年間、お前はよくやった。どうやらあの時、経験を積むことを選んだのは正解だったようだな」

私は一族の権威を象徴する印鑑を受け取った。壇下からは万雷の拍手が起こった。

式典後、新任のアシスタントが書類を手渡した。「社長、これは先ほど買収した黒崎グループの残余資産リストです」

私は何気なく数ページめくった。 「どのようにお取り計らいを?」アシスタントが尋ねた。

私は書類を閉じ、窓の外に立ち並ぶ高層ビル群を見つめた。三年前のあの火災は、全ての因縁を焼き尽くした。今こうして雲の上から振り返れば、憎しみさえも小さく見える。

「特別扱いはするな」私は会議室へと歩き出した。「通常のプロセスで処理せよ」

窓の外では、夕日が街全体に金色の輝きを纏わせていた。